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名古屋地方裁判所 昭和53年(わ)363号 判決 1984年4月25日

本籍

名古屋市西区児玉町一丁目六番地

住居

同市西区庭町三四番地

会社役員

松永尚市

昭和四年八月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宇野博出席のうえ、審理して、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役一年及び罰金一、三〇〇万円に処する。

二  右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留意する。

三  この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

四  訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、三重県四日市市諏訪栄町一〇番三号においてパチンコ店「ナショナル会館」(ビリヤード「五番館」、サウナ「五番館」など併設)、愛知県春日井市鳥居松町三丁目一一番地においてパチンコ玉自動補給装置製造販売業「マツナガ機工」(旧称「コクリヤ技研」)、名古屋市中区錦二丁目一二番一一号ほか二ヶ所において焼肉店「本町苑」、鳥取市川端町二丁目一〇三番地においてパチンコ店「いすずホール」を経営しているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和四九年分の実際の所得金額が六、三八〇万二、八四七円(別紙1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が三、二二四万四、一〇〇円であったのに、売上の一部を除外し、貸付金を簿外にする等の方法により所得の一部を秘匿したうえ、昭和五〇年三月一五日、名古屋市西区北押切町二二番地所在の名古屋西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三、二二九万八三八円で、これに対する所得税額が一、二二二万八、一〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって右不正の行為により正規の所得税額と右申告税額との差額二、〇〇一万六、〇〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五〇年分の実際の所得金額が八、五二〇万五、二〇一円(別紙3修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が三、八六五万九、二〇〇円であったのに、売上の一部を除外し、簿外定期預金を設定する等の方法により所得の一部を秘匿したうえ、昭和五一年三月一五日、前記税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、三六三万一、五七六円で、これに対する所得税額が六九〇万九、八〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって右不正の行為により正規の所得税額との差額三、一七四万九、四〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(註) 以上において、例えば(甲5)とあるのは、検察官請求にかかる証拠等関係カード(甲)中番号5の証拠、(乙17)とあるのは、同カード(乙)中番号17の証拠、(弁38)とあるのは、弁護人請求にかかる証拠等関係カード中番号38の証拠、(職2)とあるのは職権にかかる証拠等関係カード中番号2の証拠を示す。

判示全事実につき、

一  被告の公判調書(第一回、第七回、第一八回、第二五回から第二八回まで)中の各供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書八通

一  被告人の大蔵事務官に対する質問顛末書八通

一  証人今井昌平及び同川上栄一の当公判廷における各供述

一  証人渡辺忠良(第四回、第七回、第八回)、同清水孝(第五回、第六回)、同近藤弘(第一一回)、同吉光道好(第一三回)、同川上栄一(第一四回、第三三回から第三六回まで)、同吉見敏充(第一五回、同朴元株(第一九回、第二〇回、第三三回、第三七回、第三八回)、同金長吉(第二一回)及び同今井昌平(第二二回、第二四回、第四一回から第四三回まで)の公判調査中の各供述部分

一  証人馬場眞澄に対する受命裁判官の尋問調書

一  加藤茂樹、崔公一、朴元株(三通)、小林義憲、松永明子及び堀内利是に対する各供述調書

一  戸籍謄本(乙17)、証明書一二通(甲5、14、15、69から72まで、84、92、116、117、215)、調査報告書二〇通(甲16、28、42、62、66、67、74、85から88まで、91、93、96、102≪抄本≫、113から115まで≪いずれも抄本≫、216、221)、回答書二四通(甲20から22まで、32、33、35、39、41、43、55、56、59、60、63から65まで、73、75、163、165から168まで、170)、上申書五通(甲29、54、89、90、132)、臨検顛末書(甲95)、日計表謄本二通(甲100、101)、メモ謄本(甲103)、検査顛末書(甲134)、査察官調査書六通(甲202、203、211から214まで)、調査書(甲205)及び登記簿謄本五通(甲206から210まで)

一  押収してある日計表三冊(昭和五三年押第四〇六号の一、二、四)、日計表一枚(同号の三)、メモ綴三枚(同号の五)、メモ二枚(同号の六)、出玉計算書一綴(同号の七)、売上日報二綴(同号の八、一三)、普通預金通帳二冊(同号の九)、元帳六冊(同号の一〇、一三、一四、二一、二二、四二)、手帳一冊(同号の一一)、金銭出納帳二冊(同号の一五、一六)、銀行関係借入明細書一綴(同号の二三)、決算書類等一綴(同号の二四)、証書貸付金元帳写等一綴(同号の二五)、振替伝票一綴(同号の二六)、土地売買契約書等一綴(同号の二七)、領収書等三綴(同号の三一、三四、三七)及び総勘定元帳六冊(同号の三五、三六、三八から四一まで)

判示第一の事実につき、

一  証人垣内鉄也の第三回公判調書中の供述部分

一  証人金鳳沫に対する当裁判所の尋問調書及び同尾崎永吉に対する受命裁判官の尋問調書

一  垣内鉄也の検察官に対する供述調書

一  証明書三通(甲1、2、68)、回答書九通(甲30、34、40、44、45、50、161、164、169)及び調査所得の説明書(甲128)

一  押収してある決算関係書類二綴(昭和五三年押第四〇六号の一七、一八)、固定資産台帳一册(同号の一九)、契約書及び見積書一綴(同号の二〇)並びに昭和四九年納品書等一綴(同号の三〇)

判示第二の事実につき、

一  証人神谷利夫に対する受命裁判官の尋問調書

一  崔遠子(二通)、亀井孝博及び神谷利夫の検察官に対する各供述調書

一  金渭鳳の大蔵事務官に対する質問顛末書

一  証明書二通(甲3、4)、回答書九通(甲23、24、36、37、48、51、76、77、162)及び調査所得の説明書(甲129)

一  押収してある領収書一綴(昭和五三年押第四〇六号の二八)、領収書等一綴(同号の二九)、請求書控一綴(同号の三二)及び請求書綴一綴(同号の三三)

を綜合して認める。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件各公訴事実につき、被告人には、申告額を超えて課税されるべき所得はなく、かりにあったとしても逋脱の犯意はなかったから無罪である旨主張するので、まず逋脱所得金額算定の当否について検討する。

(註) 以下において、検察官に対する供述調書を「検面調書」、大蔵事務官に対する質問顛末書を「質問顛末書」、当公判廷における供述(公判調書中の供述部分及び受命裁判官の尋問調書を含む。)を「公判供述」と略称する。

一  収入

1  本件各年において被告人が株式会社ニューキングから金員を受領した事実がない旨の主張について

証人渡辺忠良の公判供述(甲112)、被告人(乙9、11)、小林義憲(甲83)、神谷利夫(甲145)及び堀内利是(甲171)の各検面調書、被告人の質問顛末書(乙1)、証明書(甲84、116、117)、調査報告書抄本(甲113から115まで)、出玉計算書(甲118)、売上日報(甲119、123)、普通預金通帳(甲120)、元帳(甲121、124、125)、手帳(甲122)、登記簿謄本(甲209)、調査報告書(甲216)等の関係証拠によれば、株式会社ニューキングは、娯楽場及び遊戯場の経営等を目的として設立された会社であるが、被告人は、同社の役員に名を連ねていなかったものの、その大株主であり、実質上の経営者であること、経理担当者の堀内利是は、被告人から「売上から毎日五万円抜いてくれ。」と指示され、昭和四九年一二月七日から昭和五〇年三月七日での間毎日五万円宛を売上から除外し、一旦架空名義の預金口座に預け入れたうえ、被告人来訪の都度引き出して手渡していたこと、後任の神谷利夫も、堀内から引継を受け、同月八日から同じように毎日の売上から五万円宛を除外し、同年四月一七日までの間は、これを堀内に渡し、同人が前記預金口座に入金したうえ被告人に手交していたこと、同月一八日からは神谷が自分で保管し、直接被告人に手渡していたことが認められる。これらの事実を内容とする前記神谷及び堀内の各検面調書は、いずれも具体的であり、かつ物的証拠により認められる客観的事実に符合しているから、信用性に疑問を差し挟む余地がない。これに反する証人神谷の公判供述(甲126、職2)は、とうてい信用できない。

2  マツナガ機工(旧称コクリヤ技研)の前記株式会社ニューキングに対する売上額は、一、一二〇万円から売上金額に計上されるべきではない浄化槽、重油タンク、濾過器等の代金分を差し引いた五〇万円である旨の主張について

証人今井昌平の公判供述(弁38)、調査報告書(甲16)、決算関係書類(甲178、179)、固定資産台帳(甲180)、契約書及び見積書(甲181)等の関係証拠を検討すると、ニューキングの会計書類の支払金額の明細には、「オートメーション機」とのみ記載があり、マツナガ機工がニューキングに対し、商品としてオートメーション機(パチンコ玉自動補給装置)を一、一二〇万円で販売したことが明らかであるところ、この記載に対応して固定資産台帳にも、オートメーション機につき、取得先を「名古屋コクリヤ技研」、取得価額を「一、一二〇万円」とする記帳があるほか、減価償却計算書では、取得価額一、一二〇万円のオートメーション機につき適正な減価償却がなされており、この中に耐用年数等、異なる減価償却方式が適用される浄化槽等が一括して記帳されているとはとうてい考えられない。一方、ニューキングの新築に際し、浄化槽、重油タンク等を含む空調・給排水・電気設備工事について名岐金属工業株式会社が代金二、一〇〇万円で請負い、これに対応して前記帳簿書類には、オートメーション機とは別に設備として電気・排水・冷暖房工事一式二、一〇〇万円が記載されているところである。証人朴元株の公判供述(弁14)は、これらの記載に照らしてとうてい措信し難い。

3  マツナガ機工の取引先である株式会社スポートセンタービルに対する昭和五〇年分売上額のうち、一、六三〇万六、〇〇〇円は、納入品の欠陥のため、回収不能であったから売上額に計上すべきでない旨の主張について

朴元株の検面調書(甲17)、金渭鳳の質問顛末書(甲25)、調査報告書(甲16)、金銭出納帳(甲177)、執行力ある判決正本写(弁22)、送達証明写(弁23)、判決確定証明写(弁24)、上申書写(弁25)、執行不能調書写(弁26)等の関係証拠によれば、マツナガ機工は、昭和五〇年七月スポートセンター宛に右代金の支払を求める請求書を発行し、さらに同年一二月ころ、内容証明郵便により右金員の支払催告をしていること、昭和五一年スポートセンターに対し右金員の支払請求訴訟を提起し、同年一〇月六日勝訴の判決を得て、これに基づき同年一二月二三日強制執行したが、執行不能となったことなどが認められる。右の事実によれば、前記一、六三〇万六、〇〇〇円の貸倒損は、昭和五一年中に確定したものであるから、昭和五〇年分の必要経費とならないことは明らかである。

二  支出

1  ナショナル会館の接待交際費として暴力団関係三六〇万円、同業者組合関係二四〇万円、官公庁関係一〇万ないし一五万円のほか、被告人と共同経営者的立場にあった清水孝に対する配当金四八〇万円を本件各年分の必要経費として認めるべきである旨の主張について

弁護人がその根拠として挙げる物的証拠は、売上除外メモ(甲103、108、109)のみであるところ、右メモは、昭和四八年と昭和五一年のものであって、本件各年にかかるものではないが、右メモによれば清水に対し随時何がしかの金銭が支出されていたことが窺われ、本件各年中も同様であったことが一応推認できないわけではなく、またその使途について、証人清水は、当公判廷において、多分交際費や配当金などとして自ら使用したと思う旨供述(弁9)しているけれども、清水は、捜査段階においては、右メモの記載につき被告人との信頼関係に基づく借入金である旨供述(甲157)していることからすれば、清水の前記公判供述の信用性には多大の疑問がある。かりにこれらの支出が清水の供述するような使途に向けられたとしても、暴力団に対する支出の如きは、とうてい社会通念上正当な支出ではないから、事業遂行上通常かつ一般的に必要な経費とは認め難く、すでに公表金額中には南署防犯課、市議接待等の官公庁関係の接待交際費も計上され、また昭和四九年は二八〇万余円、昭和五〇年は二六〇万余円に及ぶ接待交際費が計上(甲196、197)されているほか、専務である清水の接待交際費だけについてみても右各年につき四八万余円と相当額の計上(甲196、197)をみており、この額は、被告人の事業の実態からみて妥当なものであるから、認定の金額を超えてさらに高額の接待交際費を認める必要性はないというべきである。

次に清水に対する配当金については、当公判廷において、証人清水は、給与のほかに毎月定額四〇万円の配当金を得ていた旨供述(弁9)しているのに反し、被告人は、清水に対し月々一定額を支払うのではなく、利益があったとき一割ないし一割五分を支払っていた旨供述(職8)しているところ、このように事業経営に関する基本的な事項について両者の間に重要なくいちがいがあること、及び両名はいずれも捜査段階においてこの点に全く言及しておらず、公判段階において初めて右のような供述をするに至ったものであることからすれば、配当金支出の根拠となる利益分配に関する合意の存在そのものが疑わしく、また前記1に述べたように売上除外メモは、何らかの支出があったことを窺わせるけれども、配当金などの支出の事実を裏付けるに足る具体的記載を欠き、その使途は結局不明というほかはない。したがってこれを事業遂行上必要な経費と認めえないことはもちろん、利益処分の性質をもつものともいい難い。

2  ナショナル会館の清水孝に対する特別慰労金として一、〇〇〇万円を支出しているので、昭和四九年分の必要経費として認めるべきである旨の主張について

証人吉見敏充(弁11)、同今井昌平(弁38)の各公判供述、銀行関係借入明細書(甲184)、決算書類等(甲185)、証書貸付金元帳写等(甲186)、振替伝票(甲187)、土地売買契約書等(甲188)、総勘定元帳(甲196、197)、査察官調査書(甲202)、調査報告書(甲216、弁46)、不動産登記簿謄本(弁4)、借入申込書写(弁19)、禀議書写(弁20)、証明書(弁21)、振替伝票写(弁41)、普通預金払戻請求書等写(弁43)、ナショナル会館借入元帳写(弁44)等の関係証拠によれば、清水が、自宅として三重県菰野町に宅地及び同地上の建物を購入するため三重県菰野信用組合から借り入れた一、〇〇〇万円につき、ナショナル会館が、初回の昭和四八年一一月から毎月代位して返済を始め、昭和五二年一一月に、被告人が清水の退職と同時に残金を繰り上げ返済していることが認められ、また当公判廷において、証人清水は、右一、〇〇〇万円は退職金の前払である旨供述(弁9)しており、被告人も「退職金の形にもなるかと思う。」旨同趣旨の供述(職5)をしているのであるから、右の一、〇〇〇万円は、退職金の前払であることが認められる。そうだとすればナショナル会館がそのため支出した金銭は、清水が在職していた本件各年中は、前払費用ないし立替金請求権として被告人の資産を構成し、清水が退職した時に初めて経費となるものであって、本件各年中の必要経費とならないことは明らかである。

3  被告人は辻井輝夫から昭和四九年九月三日、二、〇〇〇万円を借り入れたが、その利息として、同年中に三〇〇万円、昭和五〇年中に三五〇万円を支出しているので、これを必要経費として認めるべきである旨の主張について

証人今井昌平の公判供述(弁38)、上申書(甲89)、総勘定元帳(甲204)、証明書(甲215)、総勘定元帳写(弁31)、銀行勘定帳写(弁33)、振替伝票写(弁40)等の関係証拠によれば、昭和四九年中の辻井からの二、〇〇〇万円の借入金は、被告人が経営するオークランド観光開発株式会社が借り入れ、前払利息(天引)二〇〇万円及び追加利息一〇〇万円を同社において負担していること、右の借入金のうち一、〇〇〇万円は、同社の吉光に対する債務の返済に充当され、八〇〇万円は、同社の当座預金に入金されていること、弁護人が挙示する社長勘定への振替仕訳(弁42)は、その主張にかかる二、〇〇〇万円の借入とは関係がないことが認められる。そうすると辻井からの借入金は、被告人の事業資金として調達したものではないから、たとえ被告人が右のオークランドの債務を引き受け、さらに前記前払利息以外に利息を支払ったとしても、その利息は被告人のオークランドに対する立替金であって、被告人の事業に必要な経費とはならないというべきである。

4  その他本件各年におけるマツナガ機工の仕入金額、減価償却費、給料賃金、接待交際費、旅費、交通費、雑費の認定が過少であり、またマツナガ機工の販売促進費、現場機密費、本町苑の賃料未払分、建物の減価償却費、弁護士費用を新たに必要経費として認めるべきである旨の主張について

被告人及び証人朴元株らは、当公判廷において右の主張に沿う供述をしているけれども、これを裏付ける具体的な証拠がないから、右各供述はいずれも措信し難い。

以上のとおり逋脱所得金額の算定に関する弁護人の主張は、いずれも理由がない。ちなみに、弁護人は、財産増減法によれば被告人の逋脱所得金額は、損益計算法による検察官主張の逋脱所得金額を大きく下回ることが明らかであるのに、検察官が財産増減法による検証を怠ったのは適切ではないというけれども、多額の売上除外金を密かに留保し、その使途や金額について確実な記録を残さない本件のような場合においては、財産増減法によって得られる逋脱所得金額と損益計算法によって得られる逋脱所得金額は、正規の簿記の原則に従う処理とは異なり、当然一致せず、多額の不突合を生ずるのが常であるから、損益計算法による算定自体に格別不合理な点がない以上、さらに財産増減法によって検証することは必要ではなく、またそれが適切であるともいいえない。

次に逋脱の犯意については、株式会社ニューキングからの給与所得については前記一の1に認定した事実のほか、ナショナル会館における事業所得についても、証人渡辺忠良の公判供述(甲99)、崔遠子(甲10)、亀井考博(甲13)、垣内鉄也(甲110)及び堀内利是(甲171)の各検面調書、証明書(甲14、15)、日計表謄本(甲100、101)、調査報告書抄本(甲102)、メモ謄本(甲103)、日計表(甲104から107まで)、メモ綴(甲108)、メモ(甲109)等の関係証拠によれば、同会館の経理担当者の垣内鉄也が昭和五七年六、七月ころ、被告人から「毎日の売上から一〇万円を抜いてくれ。」と言われ売上除外を始めたこと、後任の堀内利是も、垣内から引継を受け、昭和五八年六月ころから売上除外金を被告人又はその代人に渡していたところ、同年一〇月ころ被告人から「今後は毎日一五万円を売上から抜くようにしてくれ。」との指示を受けそのとおり実行していたことが認められる。さらに被告人も当公判廷において、昭和四九年の確定申告当時も、経理担当者から受領している金員が売上除外によったものであることを知っていた旨供述(職8)しており、被告人に逋脱の認識、したがって犯意があったことは明らかであって、この点に関する弁護人の主張もまた理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の同法二三八条一項に該当するところ、右は、いずれも犯罪後の法律により刑の変更があったときに当たるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、判示各所為は、いずれもその免れた所得税の額が五〇〇万円を超えるので、情状により右改正前の所得税法二三八条二項を適用し、各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑の併科刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金一、三〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留意し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橋本享典 裁判官 服部悟)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和49年1月1日

至 昭和49年12月31日

<省略>

別紙2

脱税額計算書

自 昭和49年1月1日

至 昭和49年12月31日

<省略>

税額の計算

<省略>

別紙3

修正損益計算書

自 昭和50年1月1日

至 昭和50年12月31日

<省略>

別紙4

脱税額計算書

自 昭和50年1月1日

至 昭和50年12月31日

<省略>

税額の計算

<省略>

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